「失敗してもいい。失敗したままにしなければ」
山形県立山形盲学校 理療科教員 勤務
佐藤 雄基さん(令和5年度 理療科(専攻科)卒業)
現在、私は、かつて生徒として毎日通っていた山形盲学校で、教員として勤務しています。しかし、ここに至るまでには、長い回り道がありました。
自分が目の病気を抱えていることを知ったのは、高校生の頃でした。何とか運転免許を取得し、一般企業に就職したものの、視機能の低下を自覚していなが
ら、その現実を受け入れることができず、盲学校へ進む決心がつかないままでした。それどころか、何事も障がいのせいにして自暴自棄になり、荒れた生活
を送っていた時期もありました。
そんな中、視機能の低下がさらに進み、運転免許の更新ができなくなったことで、これからについて真剣に考えざるを得なくなりました。しかし、現実を受
け入れたからといって、すぐに前向きになれたわけではありません。正直に言えば、後ろ向きな気持ちのまま、32 歳で盲学校への入学を決めました。当然、
学校に通うことへの意欲があったわけではなく、新しいことに挑戦することも諦めていました。
そんな私の心を少しずつ動かしてくれたのが、盲学校での日々でした。
仲間や先生方に支えていただきながら、日々の学びを重ねる中で、少しずつ「自分にもできることがある」という思いを持てるようになっていきました。
ある日、担任の先生から「教員を目指してみませんか?」と声をかけていただきました。当初私は、「自分には到底無理だ」と、教員という仕事を遠い世界
のことのように感じていました。そんな私に、先生はこう言葉をかけてくださいました。
「色々なことに挑戦してください。失敗してもいいんです。失敗したままにしなければ!」
その言葉と先生の熱意に触れ、私は一歩を踏み出す勇気をもらいました。
しかし、「本当に自分が教員になれるのだろうか」という迷いは、まだ心のどこかに残っていました。
そんな私にとって、決定的な転機となったのが、2 年生の時の臨床実習でした。実際に患者様と関わる中で、施術を通して誰かの役に立てることの喜び
や、自分の学んできたことが人のためになることを実感しました。患者様からいただいた「ありがとう」という言葉は、今でも心に残っています。
「自分も社会の一員として、誰かの役に立つことができる」
そう実感できたことは、教員を目指す私にとって、大きな意味を持つ経験でした。さらに当時、学校で講師を務めながら、「理療科教員になる」という同じ目標に向かって、ひたむきに挑戦していた先生の姿も、私にとって大きな刺激となりました。
「私を支えてくれた先生方のように、今度は私が誰かを支える存在になりたい。」
身近で挑戦する先生の姿と、患者様からいただいた言葉に背中を押され、いつしか教員になることへの迷いは消えていました。そして、理療科教員を目指す
ため、東京にある筑波大学理療科教員養成施設の入学試験に向けて、本格的に勉強を始めました。決して簡単な道のりではありませんでしたが、担任の先生
をはじめ、多くの先生方に支えていただきながら試験に挑戦し、無事合格することができました。
東京での学生生活は、とても有意義な毎日でした。全国から「教員になる」という強い志を持った仲間たちが集まり、最先端の専門知識に触れる刺激的な講
義や、多様な経験や考えを持つ仲間や先生方との出会いを通して、私の視野は大きく広がりました。
多くの学びと経験を通して、教員としての土台を築くことができ、卒業時には「筑波大学校友会江崎賞」を受賞するという光栄にも恵まれました。
自暴自棄になり、挑戦することすら諦めていた 32 歳の頃の私からすれば、まさか自分が教員として教壇に立つ日が来るとは、想像もしていませんでした。
数々の失敗や遠回りを経験しました。それでも、先生方からいただいた言葉や、身近で挑戦する人の姿に背中を押され、一歩ずつ前に進むことができまし
た。多くの方に支えていただき、一つひとつの経験を積み重ねてきた先に、今の自分があります。だからこそ、私はあの時いただいた、
「失敗してもいい。失敗したままにしなければ。」という言葉を、今でも大切にしています。
人生、本当に何があるか分かりません。だからこそ、面白いのだと思います。
私自身、教員としてまだまだ挑戦の途中です。
もし今、未来への一歩を踏み出すことを迷っているなら、最初から「自分には無理」と決めつけず、まずは小さな一歩を踏み出してみませんか?
その一歩が、いつか思いもよらない未来につながっているかもしれません。
学校で皆さんとお会いし、共に学び、共に頑張れる日を楽しみにしています。
イラスト:筑波大学理療科教員養成施設 卒業時、「筑波大学校友会江崎賞」を受賞した時の様子
筑波大学理療科教員養成施設 学生(施設生)
荒木 寅那さん(令和6年度 理療科(専攻科)修了)
私は 2 歳の時に、網膜芽細胞腫によって両方の視力を失って全盲となりました。そして最終的に、山形盲学校の理療科を卒業しました。
理療科は、患者さんの訴えや、触れた際に手から伝わってくる感覚などを通して、その方の抱える症状に向き合う「あん摩マッサージ指圧・はり・きゅう」の技術を学ぶ学部です。古くから視覚障がい者が深く関わってきた歴史があり、私たち自身の感覚や手技を最大限に生かして行われる仕事です。私はこの理療科で学んだ後に国家資格を取得し、現在は理療科の教員を目指し、さらなる進学を重ねています。
理療科では、いわゆるもみ方を練習するだけではありません。解剖学や生理学、臨床論などを通して、「なぜその症状が出ているのか」「どのように対応すればよいのか」「どのような点に注意するべきか」という、体の仕組みや治療の方法を、しっかりとした理論を通して学ぶことができます。さらに、衛生学や経営学など、将来就職したり自らの治療院を開いたりする際に必要となる実務的な知識や法律についても深く学ぶことができます。
「自分にできるだろうか」と、難しさを感じる方もいるかもしれません。しかし、盲学校には多様な背景を持つ同級生や先輩、後輩たちが集まっており、同じように視覚障がいを持ちながら寄り添ってくださる先生方がいます。
私も理療科に入学した当初は、「自分にやり遂げられるだろうか、鍼や灸をうまく扱えるだろうか」など、様々な不安もありましたが、授業の内容がしっかり理解できるよう丁寧に指導していただいたほか、日々の学習方法から生活に役立つ知恵まで、数多くの支えをいただいたおかげで無事に国家試験に臨むことができました。今、進路に迷っている皆さんも、どうか一人で抱え込まずに、ぜひ先生や先輩たちに相談してほしいと思います。
最終的にどの道を選ぶかは自分自身ですが、理療の道は、私たちが社会の中でしっかりと自立していくためだけでなく、たくさんの人の心身の苦痛を和らげ、直接「ありがとう」という感謝をいただける非常にやりがいのある道であると感じています。
人生は一度きりです。この理療の道も一つの選択肢として考え、迷っているのならぜひ挑戦してみてほしいと思います。
在宅・訪問マッサージ勤務 マッサージ師
柿﨑 秀文さん(平成 28 年度 保健理療科卒業)
私は中途の視覚障がい者で、現在、訪問マッサージの仕事をしています。
40歳を過ぎてから網膜色素変性症の診断を受け、それまで勤めていた会社を退職し、盲学校で3年間国家試験取得の勉強をしました。国家試験となるとハードルが高いように思われますが、私は中学校、高校とあまり勉強をしなかったので自信がありませんでした。
そんな私がどうやって国家試験を合格したのかをお伝えしたいと思います。
① 各教科で毎回ノート整理をし、それを先生に確認してもらう。(全ての教科でなくて良い)
② 授業中は板書だけでなく先生が各項目について説明してくれた言葉をメモする。(教科書で理解しづらいこともあるので先生が優しく説明してくれます。それをメモしてノート整理に活かしてください)
③ 整理をして作成したノートを必ず3回以上目を通す。(あなたが自分の言葉で作ったノートが最高の国家試験のバイブルになります)
以上3点が、私が国家試験に向け行ってきたことです。
勉強してスキルを身につけることにより、人生の幅も広がり選択肢も増えます。
これはより豊かな人生を送るために重要なことだと思います。
今、悩んでいるご本人や同じ障がいのお子様を持つ保護者の方にもそれを真剣に受け止め考えてほしいと思います。これから先どのように社会と関わりどう生きていくのかをイメージしてみてください。
例えば、どんなところに住んで、家族構成は、どんな車を持っているかなど。
その当時、私は社会から必要とされなくなった自分に対して、惨めな思いや情けない思いを抱えてきました。
もう一度誇りを取り戻したいという一心で盲学校に入学しました。
資格を取ることにより私の人生は大きく変わりました。盲学校の先生方は教育者としてのエキスパートです。どんな些細なことでも相談してください。先程申し上げたように勉強し、スキルを身につけることにより、人生の幅が広がり選択肢も増えます。
より豊かな人生を送るためにそのチャンスを手に入れてください。
ミズマ指圧マッサージはりきゅう施術院院長 鍼灸・マッサージ師
三潴 直之さん(令和3年度 理療科(専攻科)修了)
私は34歳の時に緑内障の診断を受け、次第に視野の欠損が進み視覚障がい者となったため理療の道に進むことを決心しました。高校を卒業して以来約20年ぶりの学生生活がスタートしました。
始めのうち、慣れるまでの間はとても大変でしたが先生方をはじめ、たくさんの方々にサポートをして頂き学習を進めていくことができ、無事にあん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師の国家資格を取得することが出来ました。
現在は、開業して日々施術を行っております。施術において土台となっているのは、実技もさることながら解剖学、リハビリテーション医学、東洋医学、その他の在学中に学んだ内容です。
もし、理療の道に進むべきか悩んでいるのであれば・・・
人生は一度きりです。
① 行動して失敗したこと。
② 行動できずに終わってしまったこと。
後悔が残るのは。「②」です。
あなたのチャレンジを応援します!